企業流出論の不思議

原発が再稼動しないと電力不足が深刻化し、それに嫌気をして企業が海外に流出し、その結果国内雇用が減少し、街は失業者であふれ、自殺者が増加するなどと経団連などの原発再稼動派は主張している。

疑問その一:電力不足に嫌気をして企業が海外に流出する場合、どの国に行くのだろうか。
当然停電のない国にいくべきだろう。各国の停電時間の統計を見てみるとニューヨークか韓国以外にありえない。しかし実際に海外にいった企業がどこにいっているかというと中国・タイ・ベトナムあたりであるようだ。これらの国の電力事情は決してよくはない。これらの国を選ぶ理由は現地需要対応・円高・人件費安にあると考えられる。

もちろん国内工場に自家発電設備を建設するくらいならいっそのこと海外に新規工場をたてようと考える企業は多いかもしれない。そう考えるとまあ、あながちはずれでもないかもしれない。ただしその場合電力不足は海外流出のきっかけに過ぎず、主因は市場性や円高、人件費高であることはいうまでもない。

そこで疑問その二:企業の海外流出は悪いことだろうか。
日本は少子化、人口減少社会であり、基本的に市場の拡大は困難である。一方海外ではまさに市場を拡大しつつあるところが多い。しかし円高・人件費高のため、日本でものを作ってそういった市場に投入しても価格競争力がなく売れない。ところが海外に工場をたて、低コストで生産してそういった市場に投入すれば当然ながら売れて利益になるわけである。それを国内に還流し、高付加価値品の開発に投入し、また、その利益の使途として国内市場に循環させれば日本にとってもいいことであるはずだ。電力不足がその後押しをするのであればそれは悪いこととはいえず、よいことである。しかも、企業の海外流出が起これば国内の電力需要は減少する。それは電力不足の解消につながるし、原発の穴を埋める燃料費として国富が流出することの防止にもなる。企業が海外進出することのメリットは少なくない。

もちろんデメリットは確かにある。生産拠点が移ることに伴い失業者が増えるのは確かであろう。海外進出についていけない下請け企業の倒産も増えるであろう。残念ながらこれらは日本の産業の高付加価値化には必ず伴う痛みであり避けることはできない。国内残留組は海外工場でつくる製品の設計・開発などの高付加価値産業か、還流利益の使途となるサービス業などの成長産業に移っていく構造改革が必要だ。

国際競争力のない国内産業はさっさとつぶして国際競争力のある産業に人や資金を投入すべきだという議論は電力不足など関係なく以前からある。そのような構造改革が電力不足で実現するのであれば電力不足はかえって起こすほうがいいのではないかとまで思えてしまう。