「FUKUSHIMAレポート」

 ほとんど報道されていないようだが、これも民間の事故調査委員会による福島原発事故の報告書である。
 事故についての記述で他の報告書と大きく異なるのは東電が海水注入をためらったために事故が拡大したと主張しているところだ。1号機の非常用復水器が動いていたのかどうか、これはさすがにわからないとしていて1号機のメルトダウンは避けられなかったかもとは言っている。しかし、2,3号機では隔離時冷却系が動いていたのだから、動いている最中にベントし、海水注入していれば少なくとも2,3号機については今回の事態は避けられた。今回、放射能を多く出したと思われているのは2号機だからそれが本当であれば今回ほどの汚染はなかったはずである。
 今回の事故はベントによって放射能が放出されているが、メルトダウン後のベントであったため燃料から蒸発したセシウム等がばらまかれた。2,3号機の隔離時冷却系が動いているときにベントしておけばメルトダウン前なので燃料内の放射能は放出されず、冷却水等に含まれているわずかな放射能しか放出されない。その状態でベントし、消防ポンプが機能する数気圧程度まで内部圧力を下げ、海水を注入する措置をとっていればメルトダウンは避けられ、大量の放射能をまきちらすこともなかった。それをしなかったのは東京電力経営判断であり、事態を悪化させたのは東京電力がすべて悪いのだ・・・・
 ということを言っているのだが。政府の事故調の中間報告を見てないかと思ったが参照する記述もあるので見てはいるようだ。政府の事故調では東電が海水注入をためらったことはない、高圧冷却系が動いていればそれを生かすべきであり、3号機でバッテリー温存のため高圧冷却系をとめてしまったのは重大なミスだったといっている。私は政府の事故調を全面的に信頼しているのでそうなのだろうと思っている。
 しかし、高圧冷却系を途中でとめて海水注入というのが可能ならば避けられたのかは興味があるところだ。実際には海水注入の準備もぜんぜん進まずそうしたくってもできなかったのが本当のところだろう。
 この本はこういうちょっと違った見方があって面白いが、後半は電力自由化論や日本の電力の未来などにも言及していて、原発をとりまく状況ということについてよくまとまったレポートとなっている。後半でも原発が止まっても再生エネルギーを増やす必要はないみたいなことも言っていてそういうところも他と一線を画す。正しいかどうかは別としてそれなりに説得力のある独自の視点でまとめているという点でとてもいい本であると思う。
 ところでこのプロジェクトの委員長である山口栄一という人は昔NTTの研究所で常温核融合の研究をし、「試験管の中の太陽」という本を出した人である。そういえば常温核融合はどうなったのだろうか。それこそそんな技術ができれば原発なんかで悩まなくてよくなるはずなんだけどなー。

FUKUSHIMAレポート 原発事故の本質

FUKUSHIMAレポート 原発事故の本質