「天地明察」

映画はだいぶ前にみたのだが、小説も読んだ。日は誰にでもわかる。太陽が一周するからだ。月も誰にでもわかる。月が一周するからだ。しかし年を正確に捉えることは普通の人にはできない。この誰にでもわかる日、月とよくわからない年を統合するのが暦というものだろう。今の太陽暦は月の動きを完全無視することで単純になった。今の暦の月は月の周期と同程度ではあるが、月の動きとは同期しておらず、単に年を分けるだけのものになっている。江戸時代の暦は太陽とも月とも同期する必要があったので複雑だったのだ。この暦を中国のものを使っていたのを日本独自のものにするところの物語。世界に誇る関孝和水戸光圀などもからんで実に面白い。映画と小説はそれほど違わない感じだが、いざ導入のあたりの政治的な動きは映画では表現できていないので小説のほうが面白い。暦の優劣は数学的にわかるはずだが、いざ導入となると政治的に成功しなければならない。主人公の大和暦を阻止しようとする勢力が、大和暦支持派を分断する目的で授時暦勢力を作ったのはまるで未来の党のようで面白い。最終的には採用され貞享暦となり物語は終わるのだが、歴史的にはわずか70年後、政治的な敗北により精度の劣った宝暦暦にとってかわられてしまう。政治力は大事なのだ。とにかく800年変わらなかったものを変えたというのは偉業であり物語の舞台としては申し分ない。こんなだれも注目しなかった分野の物語をよくぞ書いてくれたと思う。