電力は融通の方向へ行くか、分裂の方向へ行くか

 デススパイラルという言葉がある。再エネとEVが普及すると電力の自給自足に踏み切る人が増え、電力の送配電網から離脱する。そうすると送配電網の維持費は残る人で負担するので電気代が上がる。そうすると自給自足に踏み切る人が増える。こうして送配電網は利用料は高く、維持費はでなくなり、停電は増え、そして崩壊する。自給自足に成功した人はいいが、そうでない人は電力的には非常に貧しい暮らしを余儀なくされる。これは果たして良いことだろうか。よくはないだろう。

一方、逆方向も考えられる。自宅に再エネを設置してもEVとの連携より電力系統への売電を選択する人が増えれば逆に送配電網を流れる電力は増え、その負担は減る。再エネは変動するが、まとまれば平準化するし、系統内の変動は調整方法もいろいろある。需給状態により価格が変動すれば市場取引によって需給は調整される。技術的にも短期変動は系統用蓄電池、中期は揚水発電、長期は水素発生や燃料電池発電、そして超長期は海水ウランの精製とそれによる原子力発電で過不足を調整することが可能だ。送配電網に流れるお金が増えればより遠くの再エネの電力も利用できる。AIやブロックチェーンにより人々は電気を心配しなくても系統から安定した電力を利用できる。

 ドイツは明らかに後者を指向していてかつそのように進んでいる。日本の将来が上記のどちらの方向に行くかまだわからない。指向がどっちなのかも不明。どちらかというと前者方向に進んでいるように感じる。電力会社は前者というよりは少子化や再エネを予想して送配電網への投資を抑えている。また一般市民は原発への反感から再エネを設置している人が大勢いる。使える蓄電池が普及し始めれば一気に前者方向へ進みそうな雰囲気だ。

 しかし、前者の方向性はよくない。電力的に貧富の差は拡大する。やはり後者の道に進まないといけないが、それにはどうしたらいいか。

 まずは系統接続のメリットを作っていかなければいけないだろう。系統につながっていれば自動的に安い時に電気を使うようなEVやAIや家電等、制御のスマート化が必要だろう。利用側には電気代が安くなることがメリットだし、系統側には再エネ変動の平準化にメリットがある。そして系統離脱の動機を無くすことも必要だろう。そのために最も有効なのは脱原発だ。原発さえ動かさなければ多くの人にとって系統離脱の動機はなくなるだろう。

 前者か後者かの分岐点はおそらく全固体電池の普及の頃だろう。2025年ごろだろうか。そのころまでに上記接続のメリットと離脱動機を無くすことに成功すれば後者に進むに違いない。しかし再稼働に固執し、送電網を原発で押さえて再エネを入れなかったりすると再エネ派の人たちはおそらく一気に離脱する。すると前者の道まっしぐらだ。日本の電力は原子力とともに自滅することになる。

 意外と時間は無い。日本の原子力は再処理にしても廃棄物処分にしても問題が多すぎる。デススパイラルに突入する前に、原子力はやはり一旦整理すべきだろう。