原発と抗がん剤

 抗がん剤というのはがん細胞を攻撃する薬だが、抗がん剤でがんが治ることはほとんどない上、がんが人の細胞から生み出されたものだから抗がん剤もがん細胞だけでなく正常細胞も攻撃してしまう。その結果吐き気や脱毛や腸がやぶれたりなど重篤な副作用が発生しやすい。ドラマなどで治るわけでもないのに副作用ばかり強いという印象が強いため、人によってはがんになっても抗がん剤のリスクを恐れ治療を拒否し、副作用がないと主張する温熱療法や糖制限療法などの民間療法に頼り、結果的に抗がん剤を使うよりも大幅に寿命を短くする例があとを絶たない。リスクに敏感な人が非合理な選択をしてしまう例が多いのだ。

 実際には副作用で苦労したのは昔の話で、今は副作用を抑える薬が多数開発されたり対処の方法がわかってきたりしているのでそれほど副作用を怖がる必要もないのだ。また、抗がん剤でがんが治らないのは確かだが、がんの症状を抑えたり増殖を抑えて寿命を延ばす効果は確実にあることがわかっている。また、医者がそれぞれの判断で適当に抗がん剤を使っていた昔と違い、今はガイドラインが整備され医者の違いによる治療成績の差も少なくなってきている。つまり抗がん剤のリスクは昔と比べて格段に下がっており、一方その効果は確実に証明されたものになっている。だから現在では抗がん剤による標準治療を選択するのが合理的なのだ。

 しかし、ネットの情報量としては民間療法の方が圧倒的に多いので標準治療が合理的という説明は難しい。それを実にうまく説明している人がいる。がん治療医の押川勝太郎という人がyoutubeで多くの動画を発信している。これを見ると民間療法がいかに根拠がなくデメリットが多いか、標準治療がいかに根拠のある有効な治療かがよくわかる。リスクに敏感な人がどうせ治らないならと危険な賭けに走ることの危険性を非常にわかりやすく説明している。

 一方、原発というのは大電力を長期間安定して発電ができる方法だが、処理に困る放射性廃棄物を出すうえ、事故が起きれば放射能汚染が発生するリスクがある。その健康被害だけでなく避難時の混乱や長期避難等で引き起こされる社会問題が大きい。福島第一の事故で引き起こされた汚染や混乱の印象が強いため、世論は脱原発に傾き事故から8年たっても原発を使うべきでないと考える人が半数を超える。再エネを使うべきという人は多いが、再エネはなかなか増えず結果的に発電は火力発電に頼ることになり温暖化ガスを大量に排出し、温暖化リスクを高めることになる。事故リスクに敏感であると温暖化リスクを増やしてしまうことになる。

 実際には福島事故は東京電力が対策をさぼった結果起こったもので、対策技術そのものは女川や東海第二で有効に機能した。また、新たに整備された原子力規制委により事故対策は事故前と比べ圧倒的に管理されており、事故対策が不備な原発は動かせなくなっており、今やそれほど事故を恐れる必要はないのだ。つまり原発事故のリスクは事故前と比べて格段に下がっており、一方安全対策の効果は着実に管理されたものになっている。そして原発を使うことにより温暖化リスクを下げることができる。だから現在では規制委が基準を満たしたと判断した原発は事故リスクがほとんどあがらず温暖化リスクは確実に下げられるので使うのが合理的と思われる。

 しかし、温暖化リスクと事故リスクの比較を納得できる説明をすることは難しい。原子力の分野でも押川勝太郎医師のような説得力ある説明ができる人が現れないものだろうか。単なる主張をするだけの人は山のようにいるのだが。原子力の専門家には押川勝太郎医師のyoutubeを見て合理性の説明の仕方を学んでもらって、納得できる原発活用解説をしてほしいものだ。押川勝太郎医師のyoutubeを見て例えば抗がん剤を使えば儲かるみたいな発想はみじんも感じられない。一方、現状の原発推進派の主張は原発を使えば儲かる人たちが自分たちのために発信しているとしか思われない。今のままでは原子力を合理的に使う世論が形成されることは永遠に無いだろう。