「震災復興の政治経済学」

これは意外に面白い本だった。知らないことがたくさんあった。まずは東日本大震災の被害は意外と少なかったという話。人口密集地でおきた阪神神戸と違い被害は規模に比べ少なかった。しかしその復興には阪神神戸の3倍4倍の金額が費やされ、しかも過疎地で使われる見込みがないものを作るから補修費が払えず作ったそばから劣化が加速する。「コンクリートから人へ」の反発が震災を口実に膨大な復興費の無駄を生んでいる。また、原発事故の処理費用は東電が支払い、国は立て替えをするだけみたいな制度ができたが、実際には東電の株主も社債保有者も融資した銀行も払わず、東電が負担できないのは明らかで、電気利用者と税金からでることになる。制度をわかりにくくしているだけで実際には東電は免責されているようなものだ。また、原発事故そのものの発生経緯について詳細な分析があり、吉田所長や東電・保安院はとんちんかんなことをやっていたことが明らかにされている。原発の事故マニュアルは炉損傷後用と損傷前用があり、全電源喪失の段階では炉損傷前なのだから炉損傷を極力避けるための損傷前用マニュアルを使わなければいけなかったのに誰もそのことに気づかず、損傷後の対応をはじめからしていた。だから事故は起きた。総じて日本では事実に基づく判断が下されず、建設業界の要求や、原子力業界の要求などでことが決まる。そのために壮大な無駄や不都合が生じているが、だれも気付かないし直す人がいない。もちろんそれがわかったところで解決できないが、わかっておいた方がいいだろう。