「どう見る、どう考える、放射性廃棄物」

放射性廃棄物とCO2について考える参考になるかもと思って読んでみた。著者は長年日本経済新聞の科学記者で現職は東京工業大学原子炉工学研究科教授。専門が何かは書いていない。色分けすれば一応推進側の本と言える。確かに考え方、見方はいろいろ書いてある。しかし書き方はエッセイ的でありデータや数字の裏づけがなく、まったく説得力がない。参考文献もないのでこの人のいっていることが正しいのかどうか確認することもできない。エッセイの隙間にQ&Aがあるがこれらはまさに推進側の文章であり、疑問について法令で定められたとか、国会で民主的に決められたとか、ピントのずれたことが書いてある。「安全と言う評価がなされている」とか書いてあるところがあるがいつ誰がどのような手法と根拠でそれを評価したのかさっぱりわからない。私は心情的には高速増殖炉にも期待するほうであるが、図書館にある本でこのへんの分野の知的好奇心を満足させる本はやはり反対派側の本しかない。推進側の本はすべて文系の人が書いているようなものばかりである。この本はエッセイの方はまあまあ面白かったのでせめて根拠になる参考文献でも並べておいてくれれば文献のガイドとなったのに残念である。思えばこれはテクノロジーの話なのだ。サイエンスの分野ではいろいろわかってはいるのだが、テクノロジーは基本的に経験のないことはやってみないとわからない。つまり事故はさけられない。ならばそれをカバーするような安全対策をするしかない。原子炉の場合はそれが充実しているが、それでもスリーマイル事故などが起こる。じゃあ廃棄物処分の分野ではどうなんだろうと考えても本がなくよくわからない。世の中には専門家に任せておいて失敗した事例が山のようにある。らい病患者のこともそうだし、抗がん剤のこともそうだし、石綿だとか薬害エイズだとかみていると、事情がわかっている人たちが被害を受ける人のことなんかこれっぽっちも考えてない例がいっぱいある。日本の反原発運動家たちはいい仕事をしているのではないかと思う。そのためかどうか日本の原子炉に重大事故がないのも事実と思うので原子炉だけでなく燃料製造や廃棄物処理分野の技術者たちもいい仕事をしてもらいたいと思う。