「裁判員制度」


昔日本でも陪審員制度が機能したことがあったそうである。昭和初期ごろの話だが陪審と通常裁判を選択できること、陪審だと控訴できなかったこと、戦争などの事情により衰退し、戦後の再開を前提として休止された。そんなわけで戦後日本の国民の司法参加陪審制の復活を目指して運動がされてきた。陪審制と裁判員制度の大きな違いは職業裁判官が評決に参加するか否かにある。陪審制では裁判官は評決に参加しない。よって評決には市民の感覚がストレートに機能することになる。一方裁判員制度は職業裁判官3人と裁判員6名の多数決でかつ少なくとも多数に裁判官1名以上の賛成が必要である。このような場合職業裁判官の発言力が強いのは自明であって市民感覚が発揮されるとは言いがたい。裁判員制度が決まる過程では陪審制の復活を主張する理想論に対し、最高裁判所が抵抗してきた経緯がある。その妥協の産物が裁判員制度である。というわけでこの本は裁判員制度に批判的だ。でも感想としてはいきなり陪審制は違和感がある。市民としてもいきなりそんな大きな責任をかぶせられるのも困る気がする。裁判官と裁判員が責任を分散できる裁判員制度の方が導入としては受け入れやすい気がする。また、裁判員と裁判官が評決の場で意見を言い合える状況によって裁判官の感覚も市民感覚に近づくことも期待できそうな気がする。陪審制ではそういう状況がないため陪審制よりこういう効果はありそうな気がする。とにかく多少の問題があっても国民参加の司法が実現すると言うのはほとんど形骸化している現在の裁判を変える上では大きな一歩と言えると思う。