「空想科学映画読本」


空想科学読本」の著者柳田理科雄による映画の分析。空想科学読本以来他の人が出した似たような趣旨の本も多いがやっぱりこの人でないとこの語り口は楽しめない。しかし空想科学読本に比べると分析の詰めが甘いというか切れが悪いと言うか。まあでも発想が面白いのは面白い。言われてみれば当たり前のことだが今まで気づかなかったのがバックトゥザフューチャーなどのタイムマシンもの。地球は自転しているし、太陽の周りを公転しているし、太陽系は銀河の周りを公転している。だから過去に飛んだりする場合には飛びたい対象の時間だけでなく空間的にも太陽、地球の位置や角度の現在との相対差異を正確に求めてから飛ばなければ過去に飛んだとたん真空中に放り出されることになる。なるほど科学的(?)に考えれば過去や未来に飛ぶと言うのは空間的な位置の把握だけでもえらく大変なことである。

映画バックトゥザフューチャーでは最初のタイムトラベルはドクの飼い犬アインシュタインが行うことになっている。1分未来に行くというものである。この1分のタイムトラベルを空間的に考えてみよう。
 地球の自転速度は分速約20kmである。よって地球の自転だけがある場合、1分未来へ行くというのは20km西に移動することになる。その場合アインシュタインは20km西に出現し、ドクたちはアインシュタインを救いに20km移動しなければならない。
 しかし地球の公転を考えるとどうだろう。アインシュタインがタイムトラベルしたのは夜中の1時すぎであった。太陽の反対側から少し地球の前側へまわったあたりである。地球の公転速度は分速1800kmぐらいだから1800km地球の後ろ側へ移動すると・・・もちろん水平方向に1800km移動して太平洋のまっただなかに移動するのだが同時に地中300kmぐらいもぐってしまうことになる。あわれアインシュタインはタイムトラベルした瞬間灼熱高圧のマントル対流に押しつぶされてしまうのであった。
 さらに太陽系の銀河にたいする周回を考えたらどうなのだろう。太陽系は銀河のまわりを220km/sで移動しているそうである。1分で13200kmである。地球の直径は13000km弱だから太陽系がどっちに動いていたとしてもあわれアインシュタインはタイムトラベルした瞬間真空の宇宙にほうりだされてしまうのであった。ドクたちはなぜデロリアンが戻ってこないのか不思議がるがもはやアインシュタインを救うすべはない。ご冥福をお祈りいたします。