新版「原発のどこが危険か」

著者は桜井淳という人だが名前はきよしと読むそうだ。太田市出身であるらしい。中身は安全を求めるための技術論でありこの手の本では非常に珍しく推進派とか反対派とかの色が感じられない。推進派は指摘事項を改善すればいいし、反対派は改善されないようなら停止せよと主張すれば良い。双方使える本である。本来技術とはそういうものであろう。安全は推進派反対派の共通語であるべきなのだ。中身はスリーマイルやチェルノブイリの事故解説のほか、圧力容器の脆性劣化、熱交換器の漏れや破断、旧ソ連原発の危険性、そして全交流電源喪失。この本は今回の原発事故前に全交流電源喪失事故についての危険を明確に指摘したものになっていたため事故直後に新版を出したものだ。あとがきの日付は3月24日である。この種の本のなかではベストセラーになったようだ。なので今回の事故についてはくわしくないが、新しく認識できたことがいくつかあった。チェルノブイリの事故は全交流電源喪失事故を回避するための実験中に起きてしまった事故だった。知っていたはずだが、今回完璧な全交流電源喪失事故が起きてから改めて言われると歴史の皮肉を感じてしまう。この人の福島原発事故解説本を読んで見たいものだ。あの事故は未だによくわからないことが多い。なぜ4号機は爆発したのか、群馬の放射能は何号機から出たものなのか、非常用冷却設備は動いていたのか、動いていたなら海水注入で炉心溶融を防げなかったのか。この人なら納得のいく解説をしてくれるに違いない。読みながら思ったのだが、今回原発地震のゆれで停止し、その1時間後に津波が襲った。しかし津波チリ地震のようにかなり遠く離れてもやってくるものだ。一方地震震源が遠ければ揺れない。もし遠くの地震が原因の津波が原子炉が停止する前に襲っていたらどうなっていたのだろう。制御棒すら挿入できないような事態にならないのだろうか。沸騰水型の原子炉は制御棒を上げなければいけないので制御棒の挿入にもそれなりのエネルギーが必要なのだ。もしそうなったらチェルノブイリやそれ以上の事故になる可能性もあるだろう。今回の地震は運がよかったのかも知れない。

新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発 (朝日選書)

新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発 (朝日選書)