「福島第一原発事故を検証する」

推進派、反対派の色が見えない桜井淳の本。あとがきの日付は5月25日であるが、やはりわかっていないことが多く検証には成功していない。福島第一についてはやはりわからないことはわからない。4号機についての解説などはほぼ皆無。1,2,3号機についての状況もネットで入手できる以上の情報はほぼない。ひとつ、海水注入冷却系というのが設置されていたようなのでそれを初期から動かしておけばメルトダウンしなかったのではないか、と指摘しているのがちょっと目新しいかな。しかし、海水注入がはやければメルトダウンを防げたのではないかという指摘はこの人ももっているが、それについての答えはなく、真相はまだ不明である。面白かったのは福島第一に隠れた東海第二とか東通原発の危機一髪の状況について詳しく書かれていること。特に東通原発は定期点検で停止中だったが余震で外部電源が喪失し、定期点検中だったため3台のディーゼル発電機のうち2台が分解点検中で1台しか残っていなかったディーゼル発電機の起動には成功したが、燃料漏れで停止せざるを得なくなった、そのときに外部電源が回復したので事なきを得た、という話は背筋が凍るような話である。とにかく日本の原子力に関する技術は欧米より20年程度は遅れていて、さらに近年は持っていたはずの技術も劣化しており、非常に危険な状態にある。また、想定されてない地域で想定以上の地震が日本ではこのところ3年に1回程度おきており、他の原発もいずれ想定外の地震津波で壊れる可能性が否定できない。だから少なくとも古い原発は即刻廃炉にすべきというのがこの人の主張であり、反原発には見えない人だけに説得力がある。また、安全審査は形式的で形骸化しており、実効的なシステムに改組すべきというのは昔から各方面で指摘されていたことだ。今はその方向になっているはずだが、今進んでいる方向をこの人はどう評価するのだろうか。

福島第一原発事故を検証する 人災はどのようにしておきたか

福島第一原発事故を検証する 人災はどのようにしておきたか