「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」

 結構大きいB5くらいの本で約400pがほぼ活字。図表は多くはない。これだけのものをよくまあ短期間でまとめたものである。意外に読みやすい。これだけの分量があるので一言でいうのはなかなか難しいだろうが、自分がいうとしたら「日本が制御できなかったのは原子炉ではなく東京電力」ということになるかな。
 全般を通して何度もでてくる認識は原子力安全・保安院という組織がいかにだめなものであったかということである。そして知識も能力も財力もあった東京電力がやればできる対策をなんにもしていなかったのが事故の原因であるということを明確にしている。当然ながら全電源喪失を考慮する必要はないと決めた原子力安全委員会SPEEDIの公開をせず自己保身に走った文部省も厳しく糾弾している。
 ところでこれが出たときマスコミは「菅前首相ら政府首脳による現場への介入が、無用の混乱と危険の拡大を招いた可能性があるとする報告書」などと報道したのでそういう報告書かと思ったが、実際読んでみるとそんな印象は全然受けない。もちろんあまりに細かい仕事をやりすぎたというようなことは言っているが、東京電力に乗り込み統合本部を立ち上げたこと、混乱のなか最悪シナリオを作ったこと(巻末に載っている)、日米調整会合設置などを評価している。つまりこの報告書を読む限りは菅総理の評価は±0か多少プラス目に感じる。とにもかくにもあらゆる意味でマイナスばっかりなのが保安院なのだ。
 日本は原子力に関して自己統治能力を失っていたのだ。関連する様々な組織があるがそれぞれ自己利益ばかり考え、誰も理念や全体の最適化あるいは安全向上などまじめに考えていなかった。もしこのまま再稼動すれば似たような事故は必ず起きる。
 それにしてもこの報告書を菅総理批判と報道するマスコミは何を考えているのか。マスコミも御用学者と同じく、馬鹿かうそつきのどちらかであることが証明されてしまうぞ。ちなみに上の文章は読売のものです。まあ、地震のときマスコミの人たちは勝俣会長と接待旅行に行っていたそうだから当然か。広告費が欲しくて原子力村を批判できないマスコミも結局事故の一因なのだ。

福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書

福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書