「本質を見抜く力」

 「バカの壁」の養老孟司とその他2名の対談。ものの見方は確かにほかと違っていて面白いといえば面白いのだが、どうも今一面白くない本だ。養老先生はものの見方は人と違うがそれだけで満足しているような感じ。対談している相手はデータや図表は得意のようなので相補う関係といえるが、それで話が発展して面白くなるということは無い感じ。対談の中身が本質とは感じられない。
 面白かったのは農業問題の対談にだけでてくるもう一人。表紙にはなぜか名前が載っていない神門(ごうど)善久という人の話。農業問題の専門家で現在の日本がかかえる農業問題の本質をずばり解説してくれる。「日本の食と農」という本でサントリー学芸賞を受賞したそうだ。
 彼は日本は食のアキハバラになれると言っている。日本の舌の肥えた嗜好に適合した農産物は世界のどこにいっても評価されるはず。日本の農業がダメというほうがおかしいと。確かにそうだ。ところが日本に主業農家は30万戸程度しかないらしい。あとは兼業だったり、土地の値上がりを待つだけの名目農家が多い。日本の農を代表していると思われている農水省や農協などは実は農地などの既得権益の代表であって農業のことをまじめに考えていない。そしてこれは2008年の本だが、この10年ぐらいの変化がひどいそうだ。規制緩和を名目に農地転用などの規制を骨抜きにしていたり、法律のからみをわざと増やしてわかりにくくし、脱法行為を容易にしている。
 既得権益をもつ不誠実な人たちがこの国を動かしているから農業はダメになった。このフレーズは他にもよく聞く話だ。例えば電力会社。あるいは記者クラブ。「既得権益をもつ不誠実な人々」これが現代日本のキーワードなのだ。しかし一番あてはまりそうに思われる政治の世界では政権交代が実現した。「既得権益をもつ不誠実な人々」を象徴する自民党が政権の座から落ちたのだ。他の分野でも世代交代とともにきっと新しい時代はやってくる。それにはやはり適確な問題点の指摘とか解決策の議論とかを十分行っておく必要があるだろう。
 この神門善久という人は1962年生まれ。同い年だ。やっぱり同い年の人はいいこという人が多いなあ。

本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546)

本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546)