再生可能エネルギーと原子力

原子力を論じる場合、再生可能エネルギーか、原子力かという論調が多い。どちらも化石燃料を使わず、温暖化ガスを出さない。しかし特性には大きな違いがある。
再生可能エネルギーは文字通り再生可能であることが最大の特徴であるが、出力変動が大きく、需要に供給を合わせられず、出力ゼロの場合もあるので導入した分の出力調整が可能なバックアップの火力発電所が必要である。
原子力化石燃料を使わないが再生可能ではない。将来海中ウランを利用できる技術があるらしいのでそれが実現すれば持続可能にはなる。原子力は出力は安定しているが、原則として出力調整は行わないのでやはり需要に供給が合わせられず、安全上の緊急停止に備えるためやはりバックアップ火力が必要になる。
原子力はベース電源と位置付けられるが、ベース電源が増えると火力の出力調整幅が減るので再生可能エネルギーが入れられなくなる。原子力再生可能エネルギーは水と油であり、並び立たないのだ。
では両者をどのように評価し、活用していくべきであろうか。(なおここでは原子力は安全とか廃棄物とかの問題は何も無いものとして扱う。)
化石燃料からこれらに移行する目的はいくつかあって、第一が温暖化対策であり、第二が化石燃料枯渇に対する対策である(他にエネルギー安全保障とか、潜在的核兵器抑止力とかあるが、今は無視する)。
温暖化対策であれば基本安い順に使うべきと考える。最も安いのが議論にのっていないが排出権購入であり、次が原子力再生可能エネルギーは温暖化対策としては非常に高い。高くてもいいような使い方、夏のピーク電力削減とかにはそれでも十分使えるが、そこまでだ。だから順番としては原子力の前に外交交渉を通じて有効な排出権購入ができるようになることを最優先すべきということになる。
化石燃料枯渇に対する対策であればだいぶ様相が異なる。原子力も現在の技術で利用できるウランはいずれ枯渇する。再生可能でなければ対策の意味がない。化石燃料のうち、石炭は比較的安定しているが、原油は高騰しており、原油の枯渇対策は急を要する。資源枯渇に対する対策は再生可能エネルギーしか解はない。
さて、これらのエネルギーを今後どのように活用すべきか。
まず原子力を活用することを考えてみよう。原子力は温暖化対策としては安いし、ウランがある間は石油枯渇対策としても有効だし、海中ウランの開発がうまくいけば持続可能になる可能性もある。一方、原子力が増えた分だけ再生可能エネルギーは入れられなくなる。火力もバックアップが必要と言っても非常に稼働率が低いのでバックアップには効率の悪い老朽火力で十分だ。需給調整用の部分だけ高効率火力を用意すればよい。結果的に電力価格は低く抑えられるだろう。しかしその状態でウランが枯渇したらどうなるか。そこから再生可能エネルギーに転換するのは非常に難しい。再生可能エネルギーの導入が進んでいないし、バックアップ火力もない。システム全部を作り直すくらいのことが必要になる。
一方、先に再生可能エネルギーを活用することを考えてみよう。再生可能エネルギーは基本的に高価であり、バックアップ火力も多く用意せねばならない。しかも再生可能エネルギーのバックアップは結構稼働率が高いので効率の高い最新鋭のものを多く用意する必要がある。結果的に電力価格は非常に高価になるだろう。しかし、電力価格が高いのでその効率的な使用に多くの努力が払われるようになるだろう。スマートグリッド技術の活用が進み、不安定な再生可能エネルギーでも比較的安定的な利用が可能になるかも知れない。最大のメリットは資源枯渇の問題がないことである。再生可能エネルギーだけでも安定的に利用できるようになれば、原発を部分的に導入することも可能になる。バックアップ火力も稼働率があれば採算が取れる。最新鋭の火力であれば燃料の量も現在の約半分にすることも可能だし、熱利用の技術が進めば1/3程度も可能かも知れない。
結論:原子力利用は安価だが再生可能エネルギーの導入を阻害し、ウラン枯渇とともに様々な困難が押し寄せる。再生可能エネルギー活用は高価だが、枯渇の心配がなく、技術的発展の方向が幅広い。原子力は上記だけでなく様々な問題を抱えているので、当面活用を凍結し、後者の道を選択すれば将来的な活用の道も開けると考える。