胃がん手術2年

スキルス胃がんと診断され手術をして2年になる。手術をしたころはとてもブログに書く気になれなかった。5年生存率7%と言われるようなものだったからだ。平均で死ぬまで17か月とかと思われた。つまり去年の年末には死ぬと見込まれた。しかし、2年がたって再発は無い。胃がんというのは他のがんと違い、再発がなければほぼ治癒と考えてもいい。というわけで2年前のがん手術について書く気になってきたので書いておくことにする。

自覚症状はほとんどなかった。自分でもおかしいなと思ったのは診断の約半年前、大坂なおみ全豪オープンで優勝した日だ。その日、近くの飲み屋の焼き鳥がおいしいという話を聞いて食べに行った。大坂なおみがテレビでかかっていたのでそれを見ながらビールと焼き鳥と卵焼きを食べた。一通り食べておなか一杯になったが、卵焼きが少し残っていたので食べたいと思ったが食べれなかった。ふつうは甘いものは別腹とか言って満腹になっても少しは詰め込めるものだ。でもその日は満腹になったらその後一口も食べれなかった。胃の柔軟性が失われたのだ。おかしいなと思って家に帰ってその症状をネットで調べたのだが、「固い」とか入れればスキルスがひっかかったと思うのだが、検索の仕方が悪く、加齢によるものという結論になってしまった。

半年たって会社の検診で胃カメラを飲んだらその日にスキルス胃がんの疑いありと言われた。組織をとったので1週間かけて調べたががんは出なかった。スキルス胃がんというのは胃壁の内部にできて横に広がるので粘膜側には出ないのだ。しかし疑い濃厚ということで紹介状を書いてもらいがんセンターに行った。その後がんセンターで再度胃カメラ検査を行い、深く組織をとったらがんが出た。胃全体に広がっており、胃の全摘手術の予定となった。

胃がんは進行すると胃の外側に広がり、そこからがんが腹膜にこぼれ落ちて腹膜播種と呼ばれる状態になる。こうなると胃をとっても治らない。逆に胃をとると栄養状態が悪くなり寿命を縮めることになるので手術は中止だ。自分の場合、がんは胃全体に広がっており腹膜播種の可能性も十分考えられた。しかし腹膜播種は塊ではないのでCTには写らない。手術であけてみて腹膜播種があったらそこで中止ということになった。

2年前の9月4日に手術。腹膜播種はその時に調べた範囲では見つからず、手術は予定通り行われた。食道と十二指腸出口をつなぐルーワイ法という方法だ。しかし、後日その手術で摘出した胃やリンパ節、腹膜の一部の組織を調べたところ、リンパ節の全部、胃の断面、そして腹膜の一部からもがん組織が検出された。つまり手術でがんは取り切れなかったのだ。腹膜播種もまったくないわけではなかった。手術をしてもがん細胞が残ることが確定し、ステージ4ということになった。

胃がんステージ4というのは恐ろしい診断だ。半数の人は2年もたずに亡くなり、8割以上の人が5年もたずに亡くなる。同時期にスキルス胃がんの診断を受けた人のブログを3人ほど探して読んでいたのだが、皆すでに亡くなっている。手術後がんが増殖してももう手術はできず、抗がん剤に頼るほかない。胃がんの場合は放射線など抗がん剤以外の治療はほぼ行われない。自分の場合も手術の入院は10日ほどで終わったが、あとは抗がん剤で治療をすることになった。

ところで手術は大変だったが入院生活は快適だった。なぜかというと、病室は個室にし、レンタルでwifiを用意し、入院用にPCを新調したからだ。PCでネットが見れれば退屈することは無いし、個室だから病院の消灯時間、起床時間にも縛られない。で、主にやっていたのはミシェルチェン主演ドラマの翻訳という役に立たないが時間だけはかかる、入院生活にはちょうどいいことをやっていた。

その後の抗がん剤治療だが、自分の場合はSOXと呼ばれる、エスワンとオキサリプラチンの併用という方法だ。オキサリプラチンは比較的新しいプラチナ製剤の一種で、吐き気の副作用がほかのプラチナ製剤より抑えられているが、手足のしびれなどが出やすい。抑えられているとは言え自分の場合は吐き気は結構あって苦労したが、手足のしびれもひどくなってきたので10回でやめにしてもらった。その後はエスワン単独で現在まで続いている。オキサリプラチンの副作用の中には難聴もある。自分の難聴進行はオキサリプラチンのせいもあるだろうと思っている。一方自分の場合、エスワンの副作用はないと言っていい。

ノーベル賞オプジーボは使わないのか気になる人もいるかも知れない。オプジーボ胃がん適用になったが、サードラインとしてなのだ。自分の場合で言えば今のSOXが効かなくなったらセカンドラインとしてパクリタキセル等を使い、それも効かなくなったときオプジーボが候補になるということ。オプジーボは効く人には効くがその割合は多くはない。効く割合は通常の抗がん剤の方が高いのだ。だからそういうものが効かなくなったときに使えば他よりはよく効く。でも外れる人も多いのだ。

胃全摘後半年は食べ物には苦労した。下手なものを食べると詰まってしまう。食欲もない。でも食べなければ体力が落ち、抗がん剤の影響が出やすくなったりする。頑張って食べたのだがそれでも体重は手術前72kgくらいあったのに手術後60kg程度に落ちた。半年たってなんでも食べられるようになり、今ではパスタ2食分食べたりする。胃がないのにどこに収まるんだか。

自分の場合、がん細胞は手術で取り切れなかったことがわかっていたが、なぜかその後がんは大きくなっていない。多分抗がん剤がよく効いたということなのだろうと思う。普通にステージ4なら5年生存率は20%以下だが、すでに2年生き伸びた人のサバイバー生存率は約5割。二人に1人は生き残る。自分の場合ステージ4でも長期生存の可能性はかなり高くなってきた。

胃がんは他のがんとは違い、4年生き延びればその後はほぼ死なない。おなじ消化器の大腸がんはそんなことはなく、生存率は時間とともに下がる。胃がんは4年生き延びればほぼ治癒とみなせる珍しいがんなのだ。今2年たってがん再発の傾向がみられないのでほぼ治癒も見えてきた。神様から時間のプレゼントをもらったようなものだ。

時間が限られるかも知れないと思ってやったことはほとんどないが、唯一やったのがプリウスPHVを買ったこと。時間が限られるならいいドライブがしたいなーと思って買った。おかげでいいドライブが低コストでできている。時間のプレゼントをもらっても特別に何かやる予定はない。普通に日常を送るだけだ。それが今の自分にとっては一番幸せなことだからだ。