「白い巨塔」

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

50年も前に書かれた超優秀な外科医の物語。手術も研究も診療もすべて完璧にこなす上に権謀術数を駆使してライバルを蹴落とし教授にのし上がる。その直後手術した患者が外遊中に急死し、裁判に訴えられる。
読んでいて50年も前に書かれた感じはほとんどない。自分たちの癌の常識というのはこの小説からほとんど進歩していない。衣装が和服が多いのと電話電報に関することには古さはあるが車もあるしテレビも内視鏡もレントゲンもある。もちろんPETとかCTとかは無いが、どこまで検査すべきかという話だからあっても違和感はないだろう。今ともっとも大きく違うのは患者と医師の関係性だろう。このころは医師は専門家であり、医師以外との知識の格差は大きく、専門家は奉る存在だった。今はネットもあるし専門家との情報格差は縮小し医師といえども患者に対して十分な説明を行い納得を得たうえで治療を行っている。しかしその時代の差はこの小説が作ったかもしれない。原子力の分野などでいまだに専門家が偉そうな顔をして素人の指摘を無視し説明しようとしない様はまさにこのころの専門家と素人の関係を保存しているかのようだ。とにかく非常に面白かった。