「世間体の構造」


1977年の著作。甘えの構造と良く似ているが、難しく、引用が多く、著者の主張はあまり伝わってこない。学者的な書き方である。素人が読んでも面白い甘えの構造は名著である。こちらはそれでも文庫になっているから玄人の世界では名著なのだろう。宗教を持たない日本人は常に世間体との相対比較で自分の行動規範を決定する宿命にある。それは前に書いた小話でもよくわかる(みんな飛び込んでますよ)。その性質は昔からちっとも変わっていない。ところが比較対象である世間体の方が江戸時代前期と後期、明治維新後、戦前、戦後で大きく変わっている。技術革新などにより身体的にはたいへん生きやすい世の中になったが世間体という意味では昔と比べて非常につかみどころがわからなくなってきている。昔は交通手段も情報伝達も劣るがため、自分のまわりの世間体というものは安定していた。しかし現在ではテレビやラジオ、インターネット、学校や会社、ご近所などで多様な世間体が存在する。日本人にはなぜか生きにくい社会になってしまった。慣れた大人はそれでもまだよいが若者は大変だろう。最近のニートとかひきこもり、集団自殺などはそういうところが根本原因のような気がする。その意味でこの本の考察は現代社会にとってきわめて重要と思われる。また機会があったらじっくり読んでみたいものである。