「福島第一原発−真相と展望」

 著者は現在稼働中の最後の原発を発注した人であり、NRCの廃炉マニュアルを作った廃炉の専門家である。その人が福島の事故について廃炉という同じ言葉でいうのは適切でないくらい廃炉が困難だと言っている。その手順の説明を聞くと確かに難しそうだ。しかも30〜40年は当たり前のようにかかる。例え、現在ある原発をすべて即刻止めたとしてもそういうこととは別問題だ。まったく原発とはやっかいなものである。
 原発の本も結構読んだのでびっくりするようなことはないだろうと思ったのだがびっくりしたことが3つあった。3号機の爆発は燃料プールで臨界がおきたためとみている点、ICRPの基準では内部被曝の想定が甘く、ECRRを支持している点、そして日本が新しい規制組織のお手本にしようとしているNRCでも内部告発を無視したり業界の意向に沿った規制が行われるなど日本で問題になったことがやはりおきている点。
 ガンダーセンは3号機の爆発について燃料プールの燃料が臨界を起こしたためではないかと言っている。中間報告書も民間報告書もそんなことは言っていない。新説だがこういう経歴の人が言っているだけにあるのかもと思ってしまう。ICPRは内部被曝について組織100g単位で計算している。1g単位なら納得するけど100gで平均化すると影響が低く出過ぎると言っている。NRCの内情も明らかにしている。保安院があまりにもだめなのでNRCをお手本に独立規制機関を作ろうとしているが独立規制機関でもやはり政治的、業界的影響は逃れられない。結局、技術的に安全が確保できる可能性があっても、組織的、人的リスクはいつも付きまとい、安全を保障できることはないのだ。
 この人も専門家でありながら、原発は人間の手に負えないのでやめるべきだと言っている。これまで読んできた田坂とか武田とかyoutubeで有名な後藤とかもみんな元設計者だったり廃棄物研究者だったり燃料研究者だったりしている。こういう専門家がいまや反原発あるいは脱原発論者になるということはやはり原発は問題があるということだろう。原発推進派は原発を動かせば確実に儲かるのだからこの人たちも推進派でいたほうがいいはずだ。しかし反対に回った。金で動いている推進派よりずっと信頼できそうに思われる。

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)