がんと闘うべきか

がんについては健康食品や民間療法など様々な情報がネットだけでなく書籍などでもたくさんある。今回自分ががんになり、どの情報を信頼すべきか選択を迫られた。そのなかで絶対的信頼をおいたのがこの動画。


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がん治療が通常の病気の治療と根本的に違うことをこの動画は教えてくれる。この動画に限らずこの押川勝太郎医師は「がん治療の虚実」というチャンネルで膨大な動画をあげており、様々な相談の対応動画もあるので自分に近い事例も見つけられる。

手術の話が出たとき、手術を断るという選択肢も頭をよぎった。胃がんステージ4と診断された場合、半数の人は約1年半で亡くなる。無理して手術しても期待できる寿命の延びは平均的には数か月。残り僅かな人生だったら寿命が多少短くなっても胃を残してダメージの少ない体で過ごした方がいいのではないか、とも考えた。

しかし、寿命は残り少ないと決まったわけではない。がんとの闘いはまずはがんの総量を減らすことが大切。それには明らかに手術が有効だ。がんの総量が少なくなれば抗がん剤も効きやすくなる。そして抗がん剤治療については動画によれば副作用を抑える薬の開発が進み、昔ほどきつくはないし、有効な抗がん剤も開発され、もっとも有効性が高い標準的な治療のガイドラインも整備され、それほど恐れる必要はない。手術で取り切れる可能性があるなら踏み切るべきだ、結局はそう考えた。宝くじは買わなければ当たらない。

結果的には自分の場合、この判断は正解。宝くじにもあたりそうだし。手術後半年は食べ物には苦労したがそれは食べ物を慎重に選ぶ必要があったり、食べる気になるものを探すという苦労であって、痛いとか苦しいとか言うことはなかった。便通などは薬のせいか、手術前より調子がいいくらい。体重は減ったとは言え60kgを切ることはなかったし、今は増えて66kgくらいある。胃がない苦労はそれほどでもなかったし寿命も1年半で終わることもなかった。

しかし、人によってはそうとも言えない。自分とほぼ同時期にスキルス胃がんの診断を受け、自分と同じルーワイ法の手術を受けた女性のブログを見ていたが、手術の予後が悪く、ドレンが2か月も抜けなかったり、腹痛もあったり、食べたら必ずトイレで1時間苦しむなど大変な状態だった。体重は40kgを切り、抗がん剤の副作用も強く、苦労していた。なのに年末には再発し、この6月くらいに亡くなってしまった。2年もたなかった。そうとわかっていれば手術や抗がん剤治療をしないで手術の後遺症や抗がん剤の副作用に悩まされず、楽しく食生活できる状態で余生を過ごした方が幸せであったろう。

しかし手術前にそれを予想することはできない。しかもがんが進行してしまうから時間の猶予はない。手術をやるならすぐやらないといけない。どっちに賭けるか決断に使える時間は多くない。

以上は標準治療か治療をやめるかの話だけど、もちろん民間療法に賭けるという選択肢も無くはない。例えば標準治療ならサードラインからのオプジーボを最初から試す診療所もあるようだ。しかしオプジーボのような新しい薬にはこれまでにない副作用が起きることがあり、小さな診療所では対応しきれないだろう。膨大な研究結果に基づいた標準治療を行わない治療はリスクも高い。

スキルス胃がんといえばアナウンサーの逸見さんが有名だが、腹膜等内臓に転移していたため、標準治療なら手術は普通しないところ、それらの転移がんもごそっととるという大手術を行ったらしい。そのために手術後大変な思いをすることになったようだ。温熱療法とかに執心した芸能人もいるようだし、お金があったり有名であったりするとかえってあやしい民間療法の魔の手にひっかかったりして、有効ながん治療ができるとは限らない。

一方、がん治療をやめたけど生き延びたという話はよく聞く。珍しいから噂になりやすいという側面はあろうが、そういう人も存在することは確かだ。特にステージ4ともなればがん治療はやっても完治は見込めない。だから治療をしないで残る人生の生活の質を向上させるのは十分選択肢としてある。

ただ、がん治療と生活の質は二者択一ではなく、両方を目指すことも可能だ。今は副作用を抑えることが結構できるからだ。だから抗がん剤で延命しつつ生活の質は悪くしないという方法もあるからその方向性も模索すべき。ただ、それは抗がん剤を実際に使ってみないとわからない。副作用の出方は人により違うので抑えられるかどうかも人それぞれで試行錯誤は避けられない。

抗がん剤が効くかどうかも人により違う。ひどい人だとどの抗がん剤も効かず、副作用に苦しむだけでほとんど延命できずに死んでしまうということも起こりうる。一方で抗がん剤はがんをなくすことはできないと言われているのに抗がん剤だけでほぼがんがなくなるくらい効く人もいる。

結局、がんの対処は何を選んでも賭けであり、賭けに勝つか負けるかもわからない。賭けに勝ったのか負けたのかもわからない。手術をせず抗がん剤治療もしなければ手術の後遺症や抗がん剤の副作用に悩まされることもないが、その場合には手術をして抗がん剤治療をやったら後遺症や副作用に悩まされ結局亡くなるのか、それもなく完治できたのかはわからない。自分が納得できる判断を心がけるしかない。

ただ一つ言えるのは、我慢はしない方がいいということだ。がんは安静にして治る病気では無い。がんを理由に何かを我慢するのは意味が無い。やりたいことがあればやるべきだ。そして副作用も我慢すべきでない。副作用があったら我慢せずに対策をするか、抗がん剤を変えるか抗がん剤をやめるなど、我慢はせずにいろいろやってみるべきだ。

お金ももちろん家族の分は残しておかなければならないが、自分が将来使う予定だったぶんはさっさと使ってしまうのがよい。将来はあるかどうかわからないからだ。使うものがなければ別だが、出費を我慢するのはもうやめたほうがいい。

あとは食べ物。普通なら将来の健康のためにカロリー控えめだったり塩分控えめだったり、野菜を多くとかおやつやスイーツは控えめにとか脂っこいものは控えめにとかいろいろ我慢することがある。しかし将来はないかもしれないのだからもはやそういう我慢は不要だ。がんとの闘いのためにはエネルギーが必要だし、そのためにはカロリーを取った方がいいし、カロリーをとるんだったら油分やスイーツは強い味方だ。食欲のためには塩分も必要。我慢はしない方がよい。一般人なら「健康」≒「長寿」だが、がん患者はそうとは限らない。一般人の「健康志向」はがん患者の命を縮める可能性だってある。

我慢しない方がいい生活というのは、短期的に見ればまあ、天国だ。ごくごく短期的に見ればがんになるのも悪いことばっかりじゃない。がんとの闘いをするかどうかは人それぞれだが、闘病生活は皆訪れる。結果はわからないが、悪い側面ばかりじゃないということも意識して過ごした方がいいかもしれない。