「原発と地震」


これはなかなかよい本である。原発問題と言うのは通常推進派と反対派という切り口で語られることが多く、たいていの出版物はそれで色分けできるものである。つまり基本的な主張に理屈や情報を肉付けしているような感じである。しかしこの本はそういう主張は感じられない。ニュートラルな本なのである。推進・反対だけでないさまざまな切り口を見せる。そして当事者の立場を考えた記述になっている。もっとも象徴的なのが柏崎の地震で起きた変圧器火災。原発がなにが恐ろしいかといえば核分裂の制御ができなくなることである。当日発電所の人々は当然ながら原子炉を止めることとその確認に最優先で取り組んだ。変圧器の火災などは他の一般火災と同等なものでありそれがいくら原発の敷地内で起きたからといって核の危険を脅かすものではない。技術者の立場からいえば変圧器の火災を放置するなどというのはたいした問題ではない。しかし火災の報道をみて世界的に大騒ぎになった。立場が変われば何が重要かは変わってくる。原発で起きた火災を放置するのは何事だということになる。他にも国と電力会社、メーカーとの関係、労働組合自治体の関係、立地と政治の問題、経済と安全の問題、県と国の関係、学者と国の関係などなど、地震をネタに原発問題のさまざまな切り口を切って見せている。原発問題に興味がある人は一度は読んでおくべき本であろう。読んだ後で知ったが「2008年度日本新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議JCJ賞をダブル受賞!」であるそうである。大新聞がだらしなく画一化するなか地方新聞がいい仕事をしているじゃないか、と思わせる。