「日本『半導体』敗戦」

日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス)

日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス)

副題は「イノベーションのジレンマ」。日本の半導体産業1985年に世界トップに立った後一貫してシェアを落とし、いまや見る影もない。この原因は一般的、業界内では技術は一流であるが経営や投資判断がうまくなかったという見方が一般的である。たしかに今でも日本の技術は一流であるらしい。しかし、この本によればそれはオーバースペックなのだ。日本では設計屋は技術的に最高の設計をすることが仕事で、コストダウンは製造屋の仕事である。しかし現在の勝者、韓国や台湾の企業あるいはインテルなどはコストターゲットを決め、それが可能なように設計する。そんなことは自動車等、他の産業では当たり前だ。機械でもむやみに高品質を求めてろくでもない部品に厳しい公差を設計すればコストが高くなるのは当たり前だ。低コスト化のため、緩められる公差は緩めるのが常識だが、日本の半導体業界ではそういう発想がまったくなかったらしい。しかもその異常性に自身が気づいていない。今でも明らかに低コスト化できる製造装置のシェアが日本だけ低いらしい。これでは台湾や韓国のみならず、アメリカ企業にも負けることは当たり前である。日本では投資負担を分かち合おうと半導体業界の再編が進んだが、それが効を奏していない理由も明らかにしている。まさに読みたいタイプの本である。著者は1961年生まれで数年前まで半導体企業で一線の技術者だったが、リストラにあい、社会科学者として再出発した人だ。技術的なこともよくわかっており、背景説明も申し分ない。同世代はやはりやってほしいことをやってくれると思わせる一冊。国家でもそうだが、日本人は重箱の隅をつつくことは得意でも、全体を見渡すことが不得意なようである。